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ドリームフォース

 昨年の11月に1週間ほどサンフランシスコに行ってきました。目的は、セールスフォースの「ドリームフォース」というカンファレンスに出席するためです。

 これは単なるカンファレンスを超えている、というのが参加してみた実感です。規模からして、今年の参加者は17万人だとか。期間中、サンフランシスコの街は、どこにいっても、ドリームフォースのバッチをつけた人であふれていました。もちろん、ホテルは満杯で、宿代は普段の5倍に。私がエントリー手続きをしたのがカンファレンスの4カ月前でしたが、その時点ではホテルの予約が取れず、私がメンバーのオックスフォード&ケンブリッジの提携クラブに通常の3倍の値段で何とか部屋を確保しました。

 セールスフォースを創業したマーク・ベニオフ氏のキーノート・スピーチの日には、朝早くから並びました。金属探知機と手荷物検査の行列中を通り抜け、何千人も入る大きなホールに何とかたどり着きました。そこで驚いたのは、企業活動や商品の説明、顧客や有識者を招いたビジネストークだけで終わらず、最後にシンガーソングライターのアリシア・キーズが登場し、その後はコンサート会場に様変わりしたことです。ベニオフ氏のスピーチなどはネットでストリーミング配信されていたそうですが、さすがにアリシアのコンサートは会場限定で、ネット画面は真っ黒になったと聞きます。いずれせよ、非常に面白い経験をしてきました。

 カンファレンスでは、大勢の人の話を聞きましたが、みんなプレゼンテーションが素晴らしく上手です。おそらく陰では何十回も練習していると思いますが、日本企業の代表者のうち何人が、こうした舞台に立って20~30分新商品をお披露目し、拍手喝采を浴びるパフォーマンスができるだろうかと思ってしまいました。固い感じで、抑揚なく真面目に話すだけでは、「ぜひ買いたい、使いたい」と思うような説明にはなりません。こうした部分は日本はとても遅れているので、私たちはもっと学ばないといけないようです。

 

 

 

 

 

お寺でCRMや企業とのコラボレーション

 築地本願寺では、お寺の会員情報を適切に管理するために、セールスフォースのCRM(カスタマー・リレーションシップ・マネジメント)ソフトを導入しています。築地本願寺など大きなお寺では、人の入れ替わりも激しいため、同じ住職がずっと同じ檀家さんと付き合う形にはなかなかできません。そのため、私が築地本願寺の宗務長に就任する前から、ITシステムを導入して内部の業務を効率化しつつ、銀座サロンやカフェなどでお寺に足を運んでもらう理由をつくり、築地本願寺倶楽部会員を10万人くらい集めて、そのうち2万人に熱心なクライアントになってもらいたいという構想を持っていました。

 セールスフォースは、Salesforce.orgという子会社があり、世界中のNPOにセールスフォースを普及させるとともに、セールスフォースを利用するクライアントを巻き込んでボランティア活動や社会貢献活動を促す活動にも真剣に取り組んでいます。NPO向けに安価にシステムを提供し、ユーザーIDの何口か無料で提供してくれたりするので、大変助かります。このため、他の寺院でも導入しているところが多いと聞きます。

 さらに、セールスフォースの社員は1%の時間を社会貢献活動に割くことがルールとなっているため、朝、築地本願寺の仏具のお磨きをし、法要に出てから出社するというボランティア・プロジェクトも行っています。昨年も「仏具のお磨きボランティア」を行ってもらいました。お寺の裏側に来る機会はあまりないので、みんな興味津々の様子で、10~20人くらいの社員が参加してくれました。もともとお磨きはご門徒様のボランティアにお願いしていたのですが、企業向けに日時を決めて実施するのは、セールスフォースが初めてでした。しかし最近、企業も社会貢献が求められるようになっています。セールスフォースのような企業が増えれば、寺で何か活動することが企業のイメージアップになり、お寺も助かります。今後は、先進的な企業に声をかけてみることで、新たな活動の輪が広がるのかもしれません。

 

 

 

 

 

取材は伝道活動の一環

カンブリア宮殿のホームページに村上龍さんの私との対談前の取材ノートが発表されていたのですが、村上龍さんは、築地本願寺の変革自体よりも、普通の銀行員が僧侶になったという私の選択に「とてもびっくりした」という感想を持ったようです。自分としてはここまで自然に歩んできたキャリアが、他人の目には特異に移ることを、今回は改めて知ることになりました。

 世の中には、お寺や僧侶に関して一定の既成概念があります。僧侶は世襲が当たり前であり、通信教育で世俗の銀行員が僧侶になる人がいるのは驚きなのでしょう。さらに、外部の人が落下傘で既存の大寺院の事務方のトップに入り、営業や事業を統括するのは想定内であっても、僧侶として法要をリードしているのはかなり意外性があったようです。私が手に汗を握って導師として報恩講の法要を行っている場面は、特に熱心に撮影していただきました。

 メディアに露出することについて、お坊さんらしくないと不満に思う方がいらっしゃるかもしれません。ですが、私としてはまったく抵抗感はありません。こうして幅広く紹介されて、お寺に来てくださる方が増えるならば、広い意味での伝道活動にほかならないからです。しかも、テレビの1時間番組をつくろうとすれば、巨額の費用が掛かります。それを無料で取材作成し放映してくれる。それで、10億円以上の広告効果があるとすれば、ありがたい話です。実際に、カフェには連日行列ができるようになりました。それですぐご門徒が増えないとしても、多くのこれまでご縁のない方がお寺に来ることへのハードルは格段に下がります。

 その一方で、こうしてブームは作られるのかともしみじみ感じます。もちろん、これで有頂天になっていれば、伝道活動の足元はぐらついていきます。こうしたブームは所詮、一過性のもの。それを今後どう根付かせるのかが問題です。

 

 

カンブリア宮殿

 築地本願寺はこのところ急にテレビの露出が増えていて、昨年11月4日にはテレビ東京のニュース番組「ワールド・ビジネス・サテライト」、11月28日には作家の村上龍さんと女優の小池栄子さんがホストとして出演しているビジネス番組「カンブリア宮殿」に取り上げられました。どうも世の中の人にとって、お寺にカフェをつくったり、いろいろな改革を進めてきたことが物珍しいようです。

「カンブリア宮殿」の話は、10月のはじめに、制作会社から取材をされたのがきっかけです。実は、私はあまりテレビを見ないので、この番組のことをよく知りませんでした。担当の方に一度お会いして一通り話をすると、企画が通るかどうか1週間、待ってほしいと言われました。ところがその2日後には、番組制作と正式に取材撮影が決まったという連絡が入ったのです。そこから1カ月くらいかけてほぼ毎日五月雨式に撮影が始まりました。

 撮影は、お寺での仕事だけでなく、グロービスで教えているところまで、ありとあらゆる活動が対象になりました。映画と同じように、大量に撮影しても、使われるのはごく一部。編集されたものは、おそらく5分の1から10分の1程度でしょう。そうなると、自分の発言のどの部分が切り出されて紹介されるか見当もつきません。取材慣れしていないので、失言もあるだろうし、長い文脈の一部を取り出すことで、どぎつい言葉になるかもしれません。なかなか難しいものだと思いました。

 事実を記録して再構成することで、意味を与えられる。編集能力とは興味深いものです。出来上がった番組を見て、思っていたほどの失言シーンがなくてほっとする一方で、編集されて構成されると「こうなるのか」「なるほどと納得感のあるストーリーになるのだな」と、少し他人事のような気持ちになりました。

 

 

 

 

報恩講×AIさんのコンサート

昨年11月10日の夜、築地本願寺の報恩講の前夜祭として、アーティストのAIさんが本堂でチャリティ・コンサートを行いました。

 最初に普通に法要を行って仏様に奉告したのち、仏様に捧げる形でAIさんのコンサートが始まりました。本堂はレーザー光線を使ったテクノ舞台に変貌。内陣の扉をすべて開けて、レーザー光線で色を変えながら映し出されると、これまで見たこともない美しい光景が広がりました。演出次第でこれほど変わるものかと、本当に圧倒されました。ゴスペルの聖歌隊なども入ったパフォーマンスも素晴らしく、なかなか良いコンサートでした。

 築地本願寺ではこうしたイベントを打診されることがよくあります。その際には、法要を行い、かつ無料またはチャリティという形なら場所を提供しても構わないという条件を出します。こうしたイベントをすると、お寺という神聖なところで見世物をやっていいのかという批判が必ず出てきます。さらに、それで儲けているとなれば、ダブルで批判されます。そこで、チャリティで、かつ、報恩講の前夜祭として、仏徳讃嘆で仏様に奉告し、法要を行うという構成にしています。通常は法要という形式でないと難しいというと申込者はみんな恐れをなして辞退するのですが、AIさんはすべての条件を呑んでくれたため実現できました。

 AIさんのファンの年齢層は30代、40代、50代。若者ばかりではありませんが、普段お寺に来ることのない方でも築地本願寺に足を運ぶ最初の機会になったはずです。こうした催しを本堂で行い、ロックを歌いながらも、南無阿弥陀仏のお経も唱える。今後、若者がお寺に来るとすれば、そういうノリのものが、新しい伝道の1つの形かもしれないと感じました。