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漢文を翻訳する日本人の知恵

 高校時代を振り返ったのをきっかけに、山本七平の本を読み直そうと思い、最近『日本人とは何か』という上下巻の厚い本を読み始めました。当時はそんなに面白い本だと思わなかったのですが、博覧強記の山本七平の分析は興味深く、改めて気づかされることがありました。

 たとえば、日本人が日本語をつくってきた過程について。呉漢の時代に漢文が輸入されてきたとき、日本人は漢文に返り点やレ点をつけて翻訳し、日本語として読み下したのですが、これはユニークなやり方だと、山本七平は指摘します。 

 異なる言語間では、ある概念にぴったり当てはまる訳語がない場合がよくあります。このときに楽なのは、あえて自国語に翻訳せず、英語なら英語のままで取り入れるやり方です。その結果、高等教育になると、英語でしか学べないという国もあります。それに対して、日本では、カタカナで送り仮名をつけるなど工夫しながら、漢文を読み下し、内容を消化して、日本語で学べるようにしてきたのです。これは一種の発明であり、とてつもない知恵と言えそうです。

 ところで、宗教という言葉が登場したのは、明治時代以降のこと。西周がreligionの訳語として当てた言葉です。それ以前には宗教という言葉はなく、信仰があっただけ。宗教として整理されたのは明治以降、わずか150年にすぎないのです。さらに言うと、仏教はもともとサンスクリット語で書かれたものが3~4世紀に漢語や呉の言葉に翻訳されて、それが朝鮮半島を通じて、日本に漢文経典として入ってきました。仏教も思想も日本人流に読み下して今日があるのかと思うと、感慨深いものがあります。

Posted in: ヘッドハンターの独り言