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人生最後の日

先日、ラジオを聞いていると、58歳で亡くなった北陸のお医者さんが紹介されていました。その方はある時、自分が末期の胃癌で余命6カ月だと知ります。それを機に、癌患者や家族が気楽に集える場があるといいと思い立ち、実現させようと奔走します。市町村の協力を得て、実際にそうした場を作り上げた後に、亡くなったそうです。とても見事な生きざまだと思いました。

 死が確定すると、生が濃密になるものです。手術の前の日など、自分は死ぬかもしれないと思うと、急に人生が凝縮されてきます。黒沢明監督の映画「生きる」も、癌を宣告されて、それまで見向きもしなかった町の中に公園を作る住民の請願を、色々と苦労しながら役所なのかを通して、最後に実現させて死んでいくストーリーが心を打ちました。この世に生を受けてから、最後にどう死んでいくかは、誰にとっても永遠のテーマなのでしょう。

 仮に○○年後の何月何日に死ぬとわかっていたら、みなさんはそれまでの時間をどう過ごすでしょうか。きちんと生ききるには、ユングが幸福論の5つめに挙げた宗教観や人生哲学が必要です。「これこそが自分の人生だから、これだけはやり遂げて死のう」と思えることがなければ、きっと自堕落に過ごしてしまうはずです。ギャンブルや飲み食いに散在し、後のことを顧みない。人をだます。自暴自棄になって犯罪に手を染める、といった人も出てくるでしょう。

 幸か不幸か、ほとんどの人は自分が今日死ぬのか、明日なのか、1年後に死ぬのかはわかりません。それはそれで、ありがたいことだと思います。

 

核家族化がもたらしたもの

哲学や宗教が希薄化している背景には、大家族制が崩壊し、核家族化、単身家族化したことがあると私は考えています。大家族制の中では、祖父母から信仰や人生哲学について、生活の知恵としていろいろと教わる機会もありました。それが核家族化になると、親は親の生き方、子供は子供の生き方というように独立しています。田舎では親子代々、教員や警察官を務めてきたという家がまだあるかもしれませんが、子どもが親の職業を継ぐのは当たり前ではなくなっています。それに伴い、親から子へと様々な教えを伝承する機会が失われているのです。

 大家族制というと、思い出すのがサザエさん一家です。お父さんの波平さんがいて、子供のサザエさん、弟のカツオがいて、入り婿のマスオさんと孫のタラちゃんがいます。波平さんは特に会社で偉くはならないけれども、3世代が仲良く同居し、時には喧嘩をしたり、ぶつかり合いながらも、家族みんながちゃんと食べていける――1つの幸せな家族のモデルが描かれているのです。

 しかし今や、そういう世界は失われてしまいました。家族制度の崩壊が、日本社会の構造に与えるインパクトは計り知れません。だからこそ、自分が何のために生きて死んでいくのかを、言葉にして腹落ちさせておくことが大切です。そうしないと、不運に見舞われると、立ち向かうことができず、レジリエンスも持てず、一生が不幸になります。自分が本当に心を安らげ、幸福を感じられているかを、時々振り返ってみることをお勧めします。

 


 

ユングの幸福論

先日、資料を整理していたら、ユングが85歳の誕生を前にして、ロイターのフランクフルト駐在記者のゴードン・ヤングに語った幸福論のメモが出てきました。ユングが挙げたのは次の5つです。

 

  1. 心も体も健康であること。
  2. 結婚生活とか、家族、有人関係のような極めて個人的な関係において満足していること。
  3. 芸術とか自然における美を楽しむだけの能力を持っていること。
  4. 生活がある程度豊かであること、やりたい仕事をしていること。
  5. 人生の浮き沈みに対処するとき、これを哲学的にか、宗教的にか、いずれかの方法で上手に心を安らげるように解決していること。

 

 このうち特に私が伝えたいのは、ユングの5つめの教えです。人生の浮き沈みに対して、哲学的な方法で対処するというのは、「私にはこういう理念があるので、現状は大丈夫だ。必ずうまくいく」と思える人生哲学を持つこと。宗教的なやり方をとるなら、「阿弥陀様がいつも私を見守ってくれており、必ず救ってくださる」と思えれば、心が休まります。しかし現実はというと、人生を生きる上での原理原則を持っていない人がかなり多いように感じるのです。原理原則があれば、何か起こっても、そこに立ち返ることで、自分は大丈夫だと納得させることができるので、そのような支えを持つことは大切です。

 

 ゴードン・ヤングはこう記載しています。

「これら5つの要因は月並みなものに聞こえるかもしれないが、生活の基盤が安定しているのは、ひとえに、自分がどれくらい高望みしないかということによる。これに対して、不幸になる原因は限りなくある。こうした難しい要因を克服するときに最も必要なことは、目の前に迫る不運と見なされる事態に、忍耐と平静さとをもって立ち向かうことである」

 

 

 

映画「ファウンダー」を観て思ったこと

夏に海外に行ったときに、機中で「ファウンダー」という映画を見ました。マクドナルドの創業物語を描いた作品です。ぜひ見るといいと人から薦められていましたが、評判に違わず、なかなか面白い内容でした。

 マククドナルドの仕組みを考えたのは、もともとマクドナルド兄弟です。その権利をセールスエージェントだったレイ・クロックが買い取り、全米にフランチャイズ店を展開。そして最後は「マクドナルド」の名称も兄弟から買い取り、全世界へと進出していくのです。

 特に面白かったのは、クロックが銀行からお金を貸してもらえず、自宅を抵当に入れて、最初は住宅ローンで資金調達をしたというエピソードです。クロックは生粋の営業人ですから、ファイナンスに疎く、なぜお金が足りなくなるのかがわかっていません。銀行でたまたま出会った20代の若者から、フランチャイズ権を単に売るだけでなく、土地・建物を保有して、それを一緒にリースするやり方がいいとアドバイスされます。土地と建物があれば、それを担保に資金調達できることに加えて、オーナーから賃料が入れば、キャッシュフローが楽になるというのです。この若者はその後、マクドナルドのCOOを務めることになりました。

 全編を通じて感じるのは、オリジナル商品やサービスを作る人と、それを広めて作る人は違うということです。日本でも、発明家や画期的な商品開発をする人と、それを売って広める人は別で、二人三脚で会社を大きくしたという話をよく聞きます。マクドナルドはチェーン・オーペレーションのお手本とされてきましたが、最初から今の形ができたわけではなく、いろいろな工夫しながら、自分の不得意なところは外から人材を投入して、会社を大きくしていく。どんなビジネスであっても、創業者1人で全部はできないことを目の当たりにした気がしました。

 

 

 

行動が操作できる時代

2016年6月にイギリスの国民投票でEU離脱の道を選んだことは、世界で驚きを持って報じられました。イギリスの知識人はもちろんEU離脱に反対で、まさか通るとは思っていなかったのだと思います。

 EUから離脱して、別の経済圏が確立されたり、人や財、商流の移動が切り離されると、イギリスにとってあまり良くないと、私も直感的に思います。特に、金融中心地シティのメリットがなくなってしまいます。EUから切り離されると、EUとの金融取引、たとえば配当や儲けを送金したり受け取ったりする度に源泉税が課される可能性が高いからです。域内で自由だからと、イギリスに拠点を構え、人を雇い、マネーが動き、好循環になっていたのに、それが失われ、イギリスが敬遠されてしまうことを、みんな恐れているはずです。人の移動が自由でなくなれば、労働許可がとりにくくなります。人口減少はどこでも起こっているので、最低限の労働供給が止まれば、混乱が生じるのは避けられないでしょう。

 ところで、聞くところによると、イギリスのケンブリッジ・アナリティカという会社はビッグデータ解析を用いて予測を行っているそうです。ある政策を打ち出すと、この所得層が投票行動に行きやすくなる、というような絵を描くのですが、それが実際によく当たるのだとか。この発言をすればこの層が支持するというシナリオが統計的に有意であれば、それを重ねていくことで、意のままに世論を動かしていくことも可能になります。EU離脱時の世論形成に、同社の予測が影響を与えたのかどうかはわかりませんが、アメリカ大統選では実際に同社の予測が用いられたそうです。

 ビッグデータ解析によって、人の行動を操作できる時代になった今、まさかと思われることが現実になるケースがますます増えていくのかもしれません。